エストニアのHackathonで賞を取ったらしい(下)

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結局二日目は、朝まで電子画面に向かっていた。最終日は午後にそれぞれのチームが自らのビジネスモデルについての3分間のピッチングをしなければならない。アイデアに重みを置いたアイデアソンとは違い、実際にプロトタイプやランディングページをできるところまで製作する必要がある。僕らのチームも、ランディングページと実際にプロダクトが動いているシーンを発表で見せたかった。しかし、それにしてはガラクタ一つ作れない僕にとっては時間が無さすぎた。

最終日の朝は、スーパーハカーの家に集合して、二人でギリギリまで開発に力を注ぐことを前日別れる前に約束していたので、彼の家に朝早く向かわねばならなかった。寝不足と疲労で頭はズンと重く、目は空気に触れるたびにズキズキ痛み視界は霞んでしまう。流木のように硬く滲んだ体を起こすも、自分の力で体を動かすというより体を前のめりに倒して、自分の体重で進むように歩く。外はまだ青暗く、空気は冷たく重い。休日だからなのだろう、バスには2、3人くらいしかいなかったが、みんな覇気のある顔ではない。そりゃそうだ。氷点下、休日朝早くから、わざわざ白と黒の絵の具のみで描かれたモノクロの世界に飛び出すどこに幸せがあるのだろう。全くエナジーを使うものだ。それゆえ僕は、友人の家の最寄りに到着し、バスを降りる頃にはその日一日のパワーをほとんど使っていた。
「おはよう」スーパーハカーと、潰れたトマトのような声を吐き出す。部屋は昨日と何も変わっていなく、彼もまた同様にやつれた顔をしている。おそらく昨日は遅くまで取り組んでいたのだろう。僕がもっとエンジニアとしての力があれば、より効率的に動けてそれぞれの負担を減らせたのだろうと、惨めな気持ちにもなった。

午後の最終発表のために14時くらいには仕上げなければならなかった。声をだす力もなく、無言で二人で昨日できなかったところから、続きを進めていく。最終的な今回の目標の形にはかすってはいた。しかし、芯を射止められない。手を伸ばせば届きそうな距離あるのは、二人ともわかってはいたが光の届かないその先は手探りで探すしかない。片っ端からできることをやっていく。そうして気づいた時には昼の12時になってしまっていた。それでも朝から一歩も前に進んでいなかった。タイムリミットまで2時間くらいしかないが、焦りがあるわけでもなくそれを凌駕する疲労と気だるさだけが部屋を埋めていた。携帯を数時間ぶりに見ると、一件のFacebook未読メッセージを発見した。
「 Where are you now ? 」
もう一人のチームメイトであるジョージア人からの連絡だった。彼女はすでに会場に着いているみたいで、僕ら二人を探しているようだ。
「先行ってプレゼンの準備とビジネス面のまとめしてくるわ」と僕はスーパーハカーに告げた。
「ギリギリまでやってから行きます」スーパーハカーは答えた。僕は彼をひとり部屋に残し、雪が薄く積もって滑りやすくなった道を足元に気をつけながら早歩きで、急いで会場へ向かう。朝とは街のコントラストはガラッと変わり、休日で満足感と希望に満ちた色とりどりの人々が行き交う。駆け足にバスに乗り込み、目的地へ急いだ。
会場では、彼女はひとりでプレゼンテーションの準備やスライド製作をソファーでしていた。僕が着いた時には大体の軸は出来上がっていたこともあり、それに加え、発表まで時間がほとんどなかったため、特に改善はできなかった。仕上げに取り組みながら、誰がプレゼンテーションをするのかという話題にもなったのだが、謎に彼女はものすごくプレゼンをしたそうなのが雰囲気から読み取ることができ、僕も特にこだわりがなかったので譲ることにした。やはりみんな目立ちたいのだ。結局そのあとギリギリにスーパーハカーも会場に到着したが、ついに目標してたものの完成は実現しなかった。そのため、初日に僕がある程度作っていたプロトタイプのプロトタイプのようなものをプレゼンで使うことに決まった。残念な気持ちな反面、しょうがないと納得した自分もいた。そしてあとは発表をただ聞くだけと思うと、ホットし身体にまとわりついていた重りから解放されたような気分になった。

結果発表会場の部屋の鉄のドアの張り紙に、各チーム名が上から羅列されており、プレゼンの順番が記載されている。僕らのチーム名は『Objectify』といういかにもな名前で、張り紙の上から3番目にそのアルファベットが書かれていた。薄暗い部屋で、ステージは華麗にライトアップされており、目には大きなスクリーンがある。会場内、席は空いていたが、僕は一番後ろで立ち見をすることにした。というのも、Facebookで最終発表の様子をLive配信しようと思っていたからである。特に自分の結果には全く興味もなく、そして他のチームの結果にも興味がない。3日間それなりに楽しかったし、何より3日間の食費が浮いたのが一番の満足だった。それをみみっちいと思われようが苦学生である僕には全く気になることではない。
発表は、無駄にテンションの高い場慣れした司会者にそって行われた。受賞の発表には、それぞれのスポンサーから直接チーム名が呼ばれる。自分のチームの名前ではない名前が一つずつ確実に呼ばれていく。呼ばれたチームは、まるで自分の人生が最高のものとして輝き出し、スターになったかのような笑顔と歩幅でステージに上がり、大げさなカメラで記念写真を取る。僕はそれをただ単に後ろからクタクタになった白い布ケースに入ったiPhoneでLive配信していただけだった。すでに、5,6個の授与が終わり、Robotexというその名の通りロボット系の団体からの授与になった時のことである。
「Objectify」
マイクを通し、やや力の抜けた深い声でその名前が呼ばれた。近くに座っていた友人にiPhoneを渡し、前に受賞されに行っている間、配信を変わってもらう。他の二人は先にステージに上がっていたので、会場の後方から駆け足で前に上がった。他のチーム同様、授与する側の背の高い白人男性と握手をし、また大げさなカメラで写真をとった。とはいえ、優勝したわけでもないのでさほど嬉しいというわけでもないが、頭の中には、
「ブログの記事ネタできたわ」という腐った言葉がこだました。そのあとは、そのままの流れで発表は単調に進んだ。優勝したチームはやたら人の多いチームで、僕は全く発表を聞いていなかったので、どんな内容なのかは知らない。最後の発表が終わると、参加者全員でステージに上がり、恒例行事のようにみんなで写真をとったが、僕はちゃっかり真ん中に忍んだ。そういうところだけは、ちゃっかりしてたい性格なのだ。そして、全体写真を撮り終えたあとは、後夜祭のような感覚で主催者側からケーキが届けられ、みんなで食べながら賑やかに三日間の戦いに幕を閉じた。

ビジネスとテクノロジーという言葉が聞きたくもないのに、飛び交う今日この頃。多くの人間は、スティーブ・ジョブズやイーロンマスクに憧れ、隙あればイノベーションという言葉を乱用し、ビジネスマンごっこ、エリートごっこを始める。Hackathonは、普段0から新しいものを全て自分たちの手で作り上げていく、それは実に面白い機会である。そこには、自分のスキルを生かした戦いをする人間もいれば、ただ単に目立ちたいだけ、自分の知識を見せびらかしたいだけの人間も多く存在する。Hachathon自体、そういう彼らの満足感を満たす経験として「消費」の時間になっていたことも、この3日間を通して感じた部分もあった。

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